「 アラビアのロレンス [完全版] 」
ずっと映画館の大スクリーンで観なければこの映画の本当のよさは味わえないのでDVDを観るのは止めておこうと思っていましたが、”ピーター・オトゥールのロレンスを観たい!”という誘惑に抗しきれずに、DVDを借りて来ました。
この映画を初めて観たのは、中学生の時、映画鑑賞の授業でだった。(当時の状況がはっきりしないのですが、日本での初公開からはかなり年数が経っていたのでリバイバル上映だったのだろうか。)今でも鮮明に思い出します。冒頭のオートバイからのいきなりこちらをざわざわさせるような不安定な視点の画面、ロレンスがひとりラクダに乗って砂漠の岩山に向かってイギリスの唄を大声で歌うシーンや、ガシム救出の場面でラクダが勢い余って行き過ぎる場面で起こった笑いのこと、途中休憩があるほど長い映画というのも初めてだったし、ラストの車でアラビアからイギリスに帰還するシーンもとても印象に残っていた、が、何よりも、大画面で観る砂漠とピーター・オトゥールの美しさに圧倒された。それから何回観ただろうか。名画座やTVで。でもやっぱり映画館の大スクリーンで観るべき映画だ。TVで放映されたのを観て、かなりがっかりしたことがあって、その後、映画館以外で観ることを封印していたのですが・・・・。(完全版が出てからもかなり経っているのに。)
というわけで観ました、完全版。付け加えられたシーンがあるらしいのですが―オリジナルの記憶も曖昧になっていて、ここかな?と思うくらいでしたが―当時のロレンスがどういう状況の中でアラビアに行き、帰ったのかは理解しやすくなっていた気がしました。英国の本音、とか、それを知ったロレンスの葛藤や失望とかも理解しやすくなっていたと思います。映画はやはり、素晴らしかったです。そして、もう一度、映画館で観たい!と改めて思いました。特に、砂漠のシーン。冒頭の、カイロのイギリス軍司令部でのロレンスの置かれていた状況や彼の性格(博識だけれども少しエキセントリックで当時の上官からは役に立たないと疎まれ、周囲からも変人として少しはみだしている)が説明されるシーンから、ロレンスのマッチの火を吹き消すひと吹きで、真っ赤な太陽が地平線から昇ってくる砂漠のシーンへの鮮やかな場面転換や、ハリト族の族長アリが地平線の蜃気楼の中の小さな黒い点から段々と近づいてくる登場シーンなどは特にそう思いました。そして神の存在を信じたくなるような砂漠の見せる色々な表情も映画館の大スクリーンで観てこそだと思います。自然の偉大さとその中の人間、あるいはひとりの人間の可能性と限界を砂漠を背景に鮮やかに(これぞ映画だという風に)描いた見事な映画です。
以前は、彼が英雄”アラビアのロレンス”となっていく「アカバ攻略」までの冒険物語のような前半部分に比べて、理想と現実のギャップに悩み始める後半部分は、敗走するトルコ兵の虐殺シーンのような陰惨な殺戮シーンもあって、観るのが辛かったのですが、完全版となって、逆に、彼を只の英雄としてだけではなく、戦争の狂気や自己の残虐性などに悩み、それでも猶、アラブの独立という純粋な学者的理想をあきらめずに動いた彼の姿には、こころを打つものがあり、今回は、後半部分が印象深かったです。山賊のような護衛を引き連れてダマスカスへ出発するシーンは、その後に起こることを予感させるようなある種、狂気を孕んだ熱狂と、決意を感じさせて、圧巻でした。(以前は、アカバ攻略への出撃シーンの明るさに比べて、異様さのみが目について苦手に感じていたシーンでしたが。)そして敗走するトルコ兵の虐殺シーンにしても、それにいたるまでの前段がしっかり描けているので、(まず、トルコ兵によって蹂躙され虐殺された村の惨状にショックを受ける彼らの姿が描かれ、その村の出身者が軍の中にひとりいて、彼が「捕虜はいらねえ/皆殺しだ 」と言って剣を掲げてひとり切り込んでいき銃弾に倒れる姿を見たあとに、ロレンスが彼と同じ号令をかけるのだ。)ここは、私たちが彼の今回の軍隊に抱いた予感が当たるとともに、戦争の現実と狂気を描くという点でも重要なシーンとなっている。
そして、後半部分で問題にされたりする、アラブ人の恰好をした彼がデラアという街でトルコ兵につかまって、ムチ打ちの刑を受けるという、(一説には、同性愛行為を強要されたと言われていますが、)彼のマゾヒズムや同性愛的傾向が仄めかされていると言われているシーンがあるのですが、(最初に観た時には、その後の彼の心理などがわかりにくかったシーンだったのですが、付け加えられたシーンのためか、私の理解力がアップしたためか、今回はよくわかりました。)映画では、(彼のそういう側面があからさまに描かれることはなく、さらっと描かれていますので、スキャンダラスに騒ぎ立てるようなシーンではないと思いますが、)自らのアイデンティティーの確認=自分はアラブ人ではないということを確認する契機となった事件として、その後のロレンスの心境の変化につながっていく描き方をされていた。そして、エルサレムに行きアレンビー将軍に会って、転属を願い出るが、聴き入れられず説得され(アレンビーは、「君は国民的な名声を得るが/わしの名は軍事博物館に残るだけだ 」とか「 君は2人といない逸材だ 」とか「 天命を受けた人間は少ない 」とかの言葉で巧みにロレンスの自尊心をくすぐり、それに対するロレンスも将軍やイギリスの本音を知りながら決意するこのシーンはなかなか迫力があります)、ダマスカス総攻撃にアラブ軍を率いて(将軍の軍に先んじてダマスカスへ入城すること、”サイクス=ピコ協定”の破棄を目指して)加わることを決意する。それが、上に書いた、鬼気迫るダマスカスへの出撃シーンに繋がって行くのだ。同僚の大佐によって”神がかり”と表現されるような・・・。しかし、結果は、ダマスカスを前にロレンスに手渡されたダマスカスの葡萄がまだ”熟してない”ことによって暗示されていたのだが。
この映画の成功の原因のひとつにキャスティングの妙、素晴らしさがあるが、ロレンスの脇を固める、知的で冷静で謹厳実直なハリト族の族長アリ役のオマー・シャリフとともに、彼とは対照的に、血の気が多く、損得でしか動かないようなハウェイタット族の族長を演じているアンソニー・クインの醸しだすえもいわれぬ雰囲気が、この映画の抜群のアクセントとなっています。その表情、動き、しゃべり方、どれを取っても文句のないほどの存在感です。(何せ、映画「道 」のザンパノーですから!)そして、その一見、粗野で無知に見えるアウダに、時々、とても鋭い洞察力を感じさせるセリフを吐かせてます。例えば、アカバ攻略時、アカバの大金庫にロレンスがあると言った金貨はなく、紙幣しかないと知った時、「(ロレンスは)完璧な男ではないな 」と彼を評したり、ダマスカスで開かれたアラブ国民会議が分裂、崩壊、解散したあと、失意のロレンスに「 わしと(砂漠へ)行こう 」と言って、彼に「 砂漠などもう二度と見たくない 」と断られ、「 来るさ (砂漠の)他に行き場がない 」と言ったり、ロレンスに別れを告げたあとで泣いているアリに対して、「アラーに感謝しろ/ アラブに生まれたのは辛い思いをしろという事だ 」と言ったりします。まるで風変わりな預言者のような彼の言葉は、アラブやロレンスの真実を突いているのです。そして、アリに語った最後の言葉が表していたアラブの現実は現在もまだ続いています。
実際のロレンスのアラビアでの活動が、この映画の「アラビアのロレンス」に描かれているように、アラブの独立という理想を目指したものであったのかどうかについては、いろいろな説があって、アラブ側から見た否定的な意見も出ているようですが、イギリスの軍人でありながら、アラブに魅かれ、アラブの独立ために戦うという矛盾に満ちた彼の戦いの本質的な部分は、この映画によってかなり忠実に表現されているのではないかと思います。だから、この映画がひとのこころを捉えるのだと思う。その部分が、完全版になったことで、よりこちらに伝わって来たような気がしました。
ダマスカス市庁舎で、アリとロレンスが最後に交わした美しい会話、
アリ 「 君は必死でこの町を与えようとした 」
ロレンス 「 そう願った
夢だった
だが役に立ったか? 」
アリ 「 ああ大いに 」
「映画」カテゴリの記事
- K-20(TWENTY) 怪人二十面相・伝 ( 追記あり )(2008.12.30)
- 「 レッド・クリフ PartⅠ」(2008.11.23)
- 「 ラ・マンチャの男 」(2008.10.26)
- 「 アラビアのロレンス [完全版] 」(2007.03.20)
- 映画 「バッテリー」(2007.09.08)


Comments
こんにちは。
レビューに大いに同感し感服致しました。
また、完全版の存在意義を理解することができました。ありがとうございます。
ボクも今作のレビューを書いておりますので、トラックバックを貼らせてください。
よろしくお願い致します。
Posted by: マーク・レスター | October 22, 2008 at 09:37 PM
マーク・レスターさん(なつかしいハンドルネームですね)、こんにちは、はじめまして、
コメントありがとうございます。
「ロレンス」の記事は、かなり力を入れて書いたので、発掘して頂いてうれしいです。
このあとに、もう1個オトゥールのインタヴューなどを紹介した簡単な記事を書いてます。
オールロケでしか表現できない贅沢で素晴らしい芸術的作品ですよね。そして、オトゥール!!もう1回映画館で観たいものです。
TB頂いた力作記事は、あとでゆっくり拝見させて頂きます。
Posted by: azami | October 24, 2008 at 06:41 PM