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中也の詩の紹介

 今回、読んだ中也の詩のなかから、気に入った詩を紹介します。他にもたくさん気に入った詩はあるのですが、今回は、今の季節に合わせて、ロマンチックで静謐なイメージのものを選んでみました。


    時こそ今は・・・・・・
            時こそ今は花は香炉に打薫じ
                    ボードレール

  
  時こそ今は花は香炉に打薫(うちくん)じ、
  そこはかとないけはひです。
  しほだる花や水の音や、
  家路をいそぐ人々や。

  いかに泰子、いまこそは
  しづかに一緒に、をりませう。
  遠くの空を、飛ぶ鳥も
  いたいけな情け、みちてます。

  いかに泰子、いまこそは
  暮るる籬(まがき)や群青(ぐんじょう)の
  空もしづかに流るころ。

  いかに泰子、いまこそは
  おまへの髪毛(かみげ)なよぶころ
  花は香炉に打薫じ、

     
         詩集 「山羊の歌」より (参照:「中原中也詩集」/ ハルキ文庫 )

 もう一篇、紹介します。


     湖上

  ポッカリ月が出ましたら、
  舟を浮べて出掛けませう。
  波はヒタヒタ打つでせう、
  風も少しはあるでせう。

  沖に出たらば暗いでせう、
  櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
  昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
  ――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。

  月は聴き耳立てるでせう、
  すこしは降りても来るでせう、
  われら接唇(くちづけ)する時に
  月は頭上にあるでせう。

  あなたはなほも、語るでせう、
  よしないことや拗言(すねごと)や、
  洩らさず私は聴くでせう、
  ――けれど漕ぐ手はやめないで。

  ポッカリ月が出ましたら、
  舟を浮べて出掛けませう、
  波はヒタヒタ打つでせう、
  風も少しはあるでせう。


     詩集 「在りし日の歌」より (参照:「中原中也詩集」/ハルキ文庫 )


 さらに、もう一篇、今度のは恋歌ではありませんが紹介します。


    生ひ立ちの歌


     Ⅰ

    幼年時
  私の上に降る雪は
  真綿のやうでありました

    少年時
  私の上に降る雪は
  霙(みぞれ)のやうでありました

    十七――十九
  私の上に降る雪は
  霰(あられ)のやうに散りました

    二十――二十二
  私の上に降る雪は
  雹(ひょう)であるかと思はれた

    二十三
  私の上に降る雪は
  ひどい吹雪とみえました

    二十四
  私の上に降る雪は
  いとしめやかになりました・・・・・・

      Ⅱ

  私の上に降る雪は
  花びらのやうに降つてきます
  薪の燃える音もして
  凍るみ空の黝(くろ)む頃
  
  私の上に降る雪は
  いとなよびかになつかしく
  手を差伸べて降りました

  私の上に降る雪は
  熱い額に落ちもくる
  涙のやうでありました

  私の上に降る雪に
  いとねんごろに感謝して、神様に
  長生したいと祈りました

  私の上に降る雪は
  いと貞潔でありました


     詩集 「山羊の歌」より (参照:「中原中也詩集」/新潮文庫 )


 最後に紹介した詩のように、時代や病気や三角関係や愛児の死などのさまざまな不幸によって彩られているような中也の短い生涯でしたが、そんななかにも最初の二編にあるようなひとときがあったことを思うと少しホッとします。(現実の恋はこの詩のような静謐なものではなかったでしょうが・・・。)

 不幸や悲しみさえも美しい言葉に変える詩人は、「言葉の錬金術師」ですね。私たちの感情は、詩人によって、名付けられ、定義され、普遍化されるのを待っている。


     


  


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