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ゲドのいる入り江

 映画「ゲド戦記」をもう一度観たいと思いながら、なかなか行けそうもありませんが、最近、堤防の上の道を通る時に川を眺めながら、(この時間は私の生活においてのささやかな癒しの時間と言ってもいいと思いますが、)「ここにはゲドはいそうにないなあー・・・」と呟いている私です。映画の冒頭部分で、ゲドの船”はてみ丸”が、少しさびれた入り江に入ってくる部分がありますが―あの入り江も決して美しくは描かれてはいませんがこの川ほどは汚れてはいない―あの入り江を思い出してしまいます。それと空の雲や鳥などをみても、「ゲド」に描かれていた雲や鳥を思い出します。
 映画については、いくつかの不満な点は未だに残っていますが、何よりも「ゲド」を映画化した勇気と、たぶんアニメにおいてはジブリにしかできないであろう手仕事を感じさせる背景美術の素晴らしさをを味わわせてもらったことだけでも評価できると思います。(人物描写については、前に紹介したART本に描かれているラフスケッチのような生き生きした感じが、映画では感じられない、場面によって出来不出来が感じられたなどの点で、改良の余地があると思いましたが。)

 映画の背景美術の方向性を決めたのは、やはり宮崎駿さんの「クロード・ロラン」というヒントだったということをあとで知りました。駿氏の原作への並々ならぬ愛着を感じさせられるエピソードだと思いました。あの、美しいけれど、寂しげで荒涼とした風景。駿氏はそこまで考えていたのかと・・。

 さて、もうそろそろジブリの「ゲド」について考えるのは止めようとは思っていますが、何せ「ゲド」なもので、最後に、不満だった点を少し書いて終わりたいと思います。

 もう何回も書いてますが、テルーの
 「命を大切にしない奴なんか大嫌いだ!!」と
 「影は闇に帰れ!!」のふたつのセリフです。
 「命を」は、言っていることは正論なのですが、もんもんとするアレンに対しての言葉としては、ストレートすぎる。アレンへの反感は態度で示すだけで充分だったと思う。
 クモに対しての「影は闇に」の言葉は、原作「影との戦い」において「光と闇とは出会い、とけあって、ひとつになった」と描かれている世界観には反するのではないかと思う。

 それと、これは私の個人的な好みなのですが、背景美術においては、アニメーションとしては、かなりの冒険がなされていると思うけれど、ストーリーに関しては、ジブリ風の「ボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー」が踏襲されている点です。映画に比べて原作「ゲド」の世界は、もう少し硬質な感じなので、アレンの成長と覚醒は、テルーとの出会いではなくて、やはり同性の年長者ゲドとの旅によって成されるべきだったのではと思います。映画の前半はそういう雰囲気でしたが。そうすれば、ジブリの殻を破るようなロードムービーのような味わいの映画ができたのではと思いました。可愛いヒロインを観に来るジブリファンが多いという制約があるのかもしれませんが、私的には、そういう前提は、つまらないし、アニメの限界を感じます。アニメーションってなんだろうと考える時、アニメーションのキャラクターのリアルさってなんなのだろうと思います。私が駿監督の描く女性像に感じている違和感というのも、アニメーションの世界にしかいないような彼女たちの”リアルさの欠如”のせいとも言えると思います。アニメーションのリアルさって何なのか、アニメのキャラクターにリアルさは必要ないのか、リアルさからかけ離れていることがアニメの本質なのだろうかなどと、現実の少女のリアルさから遠く離れたヒロインたちを見るにつけ考えさせられます。そして、そういうリアルさを捨象された彼女たちを自分たちのモデルやお手本にすることは、当の少女たちにとっては、しんどいことではないのかなとも思ったりします。(そういう感じはは、「ゲド」のテナーや”千尋”には感じませんでしたけれど。)そして、いわゆるジブリファンがそういう理想化されたヒロインを求めていて、そういう観点からこの映画をつまらないと思ったとすれば、そういうジブリ映画の限界は破られるべきなのではと思ったりします。

 さて、とにかく、これまでいろいろ考えて来ましたが、私にとってジブリの「ゲド戦記」は、荒削りな部分もありましたが、大きな可能性を感じる観るに値する映画だったことは確かです。

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