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「魔法使いハウルと火の悪魔」

 映画「ハウルの動く城」の原作「空中の城1 魔法使いハウルと火の悪魔」(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作/西村醇子訳/徳間書店)を読んだ。我が家で映画を観ているのは小3の次男だけで、(長男は原作だけを読んでます)、私もDVDのレンタルが始まる前に原作を読んでおこうと思って読み始めたのですが、なかなか面白くて、(ファンタジーは導入部分でつまずくとなかなか物語りに入っていきにくかったりするのですが、そういうこともなく)すっと物語の中に入り込むことができました。

 作者のジョーンズさんは、ある少年に 「動く城の話を書いてください」 と言われて、この物語を書き始めたとのことですが、この物語の主人公ソフィーと同じように三人姉妹の長女として育ったジョーンズさんは、女の子たちのため、とりわけ 「昔話で成功するのは末っ子に決まっている」、 「いつだって失敗する」と思われている長女たちのためにこの物語は書かれています。
 
 映画の予告を見た方ならご存知のように、帽子屋の長女で十八歳の主人公のソフィーは、ふとした偶然から「荒地の魔女」の呪いによって、九十歳の老婆に変えられてしまいます。「なぜ、彼女は老婆になってしまったのか?」 これがこの物語の最大のポイントなんですが、ヒントととなる魔法使いハウルのセリフを紹介してみます。
  
  (以下ネタバレ注意 !)

 「・・・・・・あんたが気づかないうちに、何度か呪いを解こうとしてみたんだ。ところがどうやってもうまくいかない。ペンステモン先生のところへ連れていったのも、先生ならどうにかできると思ったからさ。でも、駄目だったみたいだ。そこでぼくとしては、あんたが好きで変装していると思うしかなかった」  ( 259頁 )

 ソフィーとハウルは、ソフィーが老婆に変えられる前に一度出会っているのですが、その時のソフィーは、長女の呪縛にとりつかれているのか、自分の容姿に自信が無いのか、ハウルに 「臆病な灰色ネズミちゃん」 と呼びかけられるほど、びくびくしていましたが、老婆になってからのソフィー、帽子屋を出て、ハウルの城に住む事になったソフィーは、これが同じ人物かと思うほど生き生きとして、ハウルのことを観察し、辛らつに批判したりして、ハウルや彼の城の仲間達に影響を与えます。

 「・・・・・・あんたって、不快なことはみんな嫌いなんだから、違う?逃げまわるウナギみたい。いやなことがあると、いつだってぬるぬると逃げちゃうんだ」 ( 74頁 ) 
 
 と、ソフィーに評されるハウルのほうはと言うと、「偽名とか変装大好き」で髪の毛の色と衣装にものすごい執念を持ち、浴室で入念に美しさのまじないをかけたのち、ギターをかかえて、お目当ての女性の元へ日参しますが、相手の女性が落ちてしまうと興味を失って逃げてしまうというプレーボーイ、とソフィーや仲間達には見られていて、実際その通りなのですが、このハウルの造形は、この物語が書かれた時代(1986年のイギリス)の影響が色濃いと思われます。それは、現代にまで続いているあるタイプの男の子の典型のような気がします。

 荒地の魔女との闘いのあとで、ハウルは 「ぼくは臆病者なんだ。こんな恐ろしいことがやれる唯一の方法は、そんなことしないと自分をだますことなのさ!」 と告白しています。 (このような正直さはハウルのほうの変化だったのですが) ソフィーという自分に自信が持てない(今風に言うと自己肯定感の低い)少女がその呪縛から逃れるために、少女が九十歳の老女になるという呪い(設定)が必要だったのです。そしてハウルはそんなソフィーを最初は迷惑がりながらも受け入れたのです。

 ところで、少女が老女になってしまうこの設定というのは、フェミニズムと聞いただけでアレルギー反応を起こしそうな日本の多くの男の子たちにとって、最も興味のない物語の設定ではないでしょうか。彼らにとってソフィーばあさんになったソフィーに好意を持つということは、たとえ魔法でその正体を知っていたとしても考えられないことのような気がします。映画を観ていないので断定はできないのですが、映画の評判がいまひとつだったのは、そのあたりの日本人のフェミニズム的女性観の欠如のせいなのではないかと思ったりします。

 老女と男の子の物語として思い出すのは、フィリッパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」ですが、主人公のトムは夜中になると現われる不思議な庭で、おじさんたちのアパートの管理人のバーソロミューおばあさんの、幼い子ども時代から結婚前までの女の子に出会って、いっしょに遊ぶのです。そして、最後に管理人バーソロミューおばあさんの中に、庭園で遊んだ女の子ハティを見いだしたトムは、おばあさんを愛情を持って抱きしめるのです。
 「トムは・・・・・・」の主人公トムは十歳くらいだったでしょうか。トムとバーソロミューおばあさんの間にあるのは異性をロマンスの対象として意識する前の人間愛と呼んでもいいような愛情のように思われます。それに較べて「ハウル」のソフィーは十八歳とお年頃なので、ハウルとソフィーの間にはロマンスが芽生えたのです。

 それにしても、日本の男の子たちの中に、少女がおばあさんになるという呪いの中に閉じこもらざるを得ないという女の子たちの状況への想像力でも直観力でもいいのですけどを持ち合わせているハウルのような青年が現われてくれれば、もう少し彼女達も生き易いでしょうにと元少女は思いつつこの項を終わることにします。

魔法使いハウルと火の悪魔
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作 / 西村 醇子訳
徳間書店 (2001.10)
通常24時間以内に発送します。

 ※gooブログのほうの記事もよかったらのぞいてみてください。「ヨン様、韓流ドラマ考」と題して書いています。

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